「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは?離婚が認められる12の具体例
- 執筆者弁護士 山本哲也
はじめに|「離婚したいけれど、理由になるのか不安」という方へ
夫婦の関係が冷え切ってしまっても、「不倫」や「DV」といった明確な理由がなければ離婚は難しいと思っていませんか?
実は、民法にはそうした明確な類型に当てはまらなくても、状況次第で離婚が認められる場合があります。
それが「その他婚姻を継続し難い重大な事由」という法律上の離婚原因です。
このコラムでは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは何か、またどのようなケースで離婚が認められるのか、裁判例を交えて分かりやすく解説します。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは?
まず、民法770条1項には、離婚が認められる法定の5つの原因が定められています。
条文番号 | 離婚原因 |
第1号 | 配偶者の不貞行為 |
第2号 | 悪意の遺棄 |
第3号 | 3年以上の生死不明 |
第4号 | 回復の見込みがない精神病 |
第5号 | その他婚姻を継続し難い重大な事由 |
このうち第5号にあたる「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は、それ以外のあらゆる離婚原因を包括的にカバーする抽象的な規定です。
裁判離婚の5つの離婚事由
総合的に判断される主な要素
「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかは、たった一つの出来事で決まるわけではありません。
裁判所は、これまでの夫婦関係の経過や今の状況など、さまざまな事情を全体的に見て判断します。
その際に特に重視されるのが、以下のようなポイントです。
- 夫婦双方の言動や生活態度
- 婚姻を続ける意思の有無
- 子どもの有無や年齢
- 収入・職業・家庭環境
- 別居の有無とその期間
それぞれの項目について以下で説明します。
① 夫婦双方の言動や生活態度
お互いに思いやりを持って接しているかどうか、また日常生活で問題となるような言動があったかなどが見られます。たとえば、暴言や暴力、極端な無関心などが続いている場合は重要な材料になります。
② 婚姻を続ける意思の有無
どちらか一方が「もう一緒には暮らせない」と強く感じていて、話し合いや修復の見込みがなければ、婚姻関係が破綻していると判断されやすくなります。
③ 子どもの有無や年齢
特に未成年のお子さんがいる場合には、その養育環境や親権のことも含めて、子どもの生活や心身への影響がしっかり考慮されます。
④ 収入・職業・家庭環境
経済的な依存関係があるか、家の中でどのような役割を担っているかなども、夫婦の関係性を見極めるうえでの判断材料になります。
⑤ 別居の有無とその期間
別居の有無や、その期間がどれくらい続いているかも重要です。一般的には、理由のないまま3年以上の別居が続いていれば、夫婦関係が実質的に終わっていると判断されることがあります。
離婚が認められた12の具体例
上記をふまえて、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」がどんなケースで認められるのか、実際に離婚が認められた事例、そして離婚を実現するために必要な対策などを、12の具体例ごとにわかりやすく解説します。
【1】性格の不一致
お互い人間ですから性格や価値観の不一致はあって当然ですが、それがあまりに大きく、夫婦関係が修復不能な不和を招くと離婚原因になりえます。
✅️ 離婚が認められたケース
妻はだらしない性格で夫は几帳面かつ潔癖という正反対の気質で互いに妥協できなかった事例では、裁判所は「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたると認定し、離婚が成立しました。
性格の不一致により生活のあらゆる場面で深刻な対立が生じ、夫婦の会話も成立しないほど関係が破綻している場合には認められやすいと言えます。
✅️ 離婚が難しいケース
性格が合わないと感じていても、夫婦として一定の協力関係が続いている、または改善の余地があると判断される場合は認められない可能性が高いでしょう。
✅️ 性格の不一致で離婚するためには?
・日常の衝突の記録を残す(例:LINEや日記)
・関係修復が困難であることを示す具体的な事情(長期にわたる別居・家庭内での会話の断絶など)を積み重ねておく
性格・価値観が合わない場合の離婚方法
【2】DV(家庭内暴力)
配偶者からの暴力は典型的な離婚原因です。
✅️ 離婚が認められたケース
夫が酒に酔うたび妻に暴行を加えて怪我を負わせ、妻が愛情を完全に失った事案で離婚が認められています。
✅️ 離婚が難しいケース
一時的な口論や、証拠がまったくない暴力の主張のみの場合は証明が難しく、それのみで離婚が認められる可能性は低いといえます。
✅️ DV(家庭内暴力)で離婚するためには?
・暴力の写真、診断書、警察への相談記録など客観的な証拠を確保
・暴言や暴力の録音、LINEのやりとりも証拠として有効
パートナーのDVに苦しんでいる方へ
【3】モラルハラスメント(精神的虐待)
身体的暴力がなくとも、暴言や人格否定も夫婦関係を破綻させうる重大事由です。
✅️ 離婚が認められたケース
妻が夫に「結婚して損した」「偉そうにするな」「ばか、何を言ってるの」といった暴言を連日浴びせていたケースでは、裁判所は精神的虐待による婚姻破綻を認め、離婚を許可しました。
✅️ 離婚が難しいケース
モラハラによる離婚は、証拠が乏しかったり言動が夫婦の単なる口論と見なされる場合には認められにくくなります。
✅️ モラハラで離婚するためには?
・暴言の録音やメモ、SNSやLINEでの発言のスクリーンショットを残す
・精神的被害を証明するために心療内科の受診歴や診断書も有効
【4】家事・育児への非協力
配偶者が家庭生活への協力を著しく欠いた場合も、婚姻継続困難と判断されることがあります。
✅️ 離婚が認められたケース
妻が二度流産して心身共に苦しんでいたのに、夫がその痛みに寄り添わず家事や育児も一切手伝わなかった事案では、夫婦の信頼関係は崩壊しているとされ離婚が認められました。
【5】金銭・浪費問題
家計を著しく悪化させる浪費癖や度重なる借金も離婚原因になり得ます。
✅️ 離婚が認められたケース
妻が夫に無断で夫名義の借金を複数の金融機関から合計250万円も作り夫が返済、その後も夫を保証人に高利貸しから借金し夫の職場に請求が来たケースで離婚が認められています。
【6】長期の別居
正当な理由のない長期間の別居も、婚姻関係破綻の有力な根拠となります。
✅️ 離婚が認められたケース
一般的には、別居が約3年以上続いていれば「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する目安になると言われます。
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【7】性生活上の重大な問題
夫婦間の性的関係に関する深刻な不満や異常も、離婚原因となる場合があります。性交渉の長期拒否や一方的な異常性癖の強要などによって夫婦関係が破綻した場合は離婚が認められます。
✅️ 離婚が認められたケース
裁判例では、夫がポルノ雑誌に異常な執着を示し、それを見ながら自慰ばかり行って妻との性交渉を拒否するようになったケースで、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められました。
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【8】失業や怠惰な生活態度
過度の酒浸りやギャンブル狂い、著しい就労意欲の欠如なども婚姻破綻をもたらします。
✅️ 離婚が認められたケース
裁判例では、夫が確たる見通しもなく職を転々とし、安易に借金をし、さらに妻らに借金返済の援助を求める等けじめを欠く生活態度に終始していたケースにつき「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されました。
【9】過度な宗教活動
信教の自由は夫婦間でも尊重されますが、あまりに度が過ぎると離婚原因となり得ます。
✅️ 離婚が認められたケース
例えば、妻が信者の集会等の宗教活動に時間を費やし、夫の反対を無視して幼い子に教義を教える等したケースでは、離婚が認められました。
【10】犯罪行為・服役
配偶者が犯罪を犯して服役した場合も、状況次第では婚姻継続困難と判断されます。
✅️ 離婚が認められたケース
裁判例では、夫が2回にわたり懲役刑の執行を受け服役し、家庭生活に重大な支障をきたしたケースで「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されました。
【11】重篤な疾病や身体障害
配偶者が重い病気や障害を負った場合、そのことだけで直ちに離婚原因になるわけではありませんが、それが原因で夫婦の協力義務(民法752条)が果たせない場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
✅️ 離婚が認められたケース
裁判例でも、妻がアルツハイマー病を患い長期間にわたり夫婦の協力義務を全く果たせないケースで、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されました。
【12】配偶者の親族との不和
いわゆる嫁姑問題のような、配偶者の親族との不和も「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。特に、親族との不和があるにもかかわらず配偶者本人も協力的でない場合は離婚が認めらやすくなります。
✅️ 離婚が認められたケース
裁判例では、妻と夫の両親が度重なる衝突を起こしていたにもかかわらず、夫が間に入って調整したり円満化に努めたりせず、無関心のままに放置したケースで離婚が認めらました。
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婚姻を継続し難い重大な事由によって離婚するには?
離婚の手続きは3つのステップ
離婚の手続きは、まずは夫婦間での話し合い(協議)から始まります。協議で合意に至らなかった場合は、家庭裁判所での離婚調停(調停)へと進みます。それでも解決しなければ、最終的には離婚訴訟(裁判)によって離婚を求めることになります。
離婚を希望する側が証明する必要がある
「婚姻を継続し難い重大な事由」によって離婚を求める場合、離婚を希望する側がその事由が存在することを主張し、その根拠となる証拠を準備する必要があります。
裁判では「主張と証拠」が鍵となる
裁判にまで発展した場合、裁判官を説得するためには、主張は具体的でなければならず、それを裏付ける証拠も適切に用意されていなければなりません。
協議や調停の段階であっても、主張と証拠の両方がそろっていれば、手続を有利に進めることができます。
【パターン別】離婚前に準備すべきことを弁護士が解説
弁護士に相談・依頼するメリットとは?
「重大な事由」が該当するか判断してもらえる
前述のとおり、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は抽象的な概念であり、どのような事情があれば該当するかはケースバイケースです。
弁護士に相談すれば、自分の状況が法律上どのように評価されるか、専門的な視点からアドバイスを受けることができます。
各手続段階で適切なサポートを受けられる
離婚に至るまでの過程は、協議・調停・裁判と段階的に進みます。弁護士に依頼すれば、各段階でその時々に応じたベストなサポートが受けられます。
裁判手続を有利に進められる
特に裁判となると、訴状や証拠の作成、相手方の主張に対する反論、尋問対応など、法律的にも技術的にも難易度の高い手続が求められます。
裁判官は当事者の主張と提出された証拠をもとに判断するため、準備が不十分な場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められず、離婚が成立しないおそれがあります。
訴訟に精通した弁護士に依頼すれば、代理人としてこれらの手続を適切に進め、離婚裁判を有利に進めることが可能です。
精神的負担の軽減にもつながる
弁護士に依頼することで、協議や調停の場面でも、本人が直接相手とやり取りをする必要がなくなります。相手との接触にストレスを感じている方にとっては、大きな安心につながるでしょう。
離婚に関するご相談は弁護士法人山本総合法律事務所へ
「婚姻を継続し難い重大な事由」で離婚を希望する場合は、自分の状況がその事由に該当するかどうかを正確に判断する必要があります。
また、離婚を成立させるには、裏付けとなる証拠をしっかりと準備しておかなければなりません。証拠が不十分なままでは、「重大な事由」があることを証明できず、離婚が認められない可能性があります。
弁護士に相談することで得られる安心
離婚問題は、法律上の論点だけでなく、当事者間の感情的対立も大きく影響するため、精神的な負担が非常に大きくなりがちです。
弁護士に依頼することで、専門的な支援だけでなく、精神面の負担も軽減することができます。
当事務所の特長
弁護士法人山本総合法律事務所では、これまで多数の離婚相談をお受けし、さまざまな離婚案件を解決へと導いてまいりました。
法的なアドバイスはもちろんのこと、依頼者の気持ちにも丁寧に寄り添いながら、最適な解決方法を一緒に考えてまいります。
まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な離婚専門の弁護士が、あなたの力になります。
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