食い尽くし系の夫と離婚することはできる?
- 執筆者弁護士 山本哲也

結婚当初は気にならなかったけれど、結婚生活を続ける中で「なんだかこの人、思いやりがない」と感じる瞬間が増えたということはないでしょうか。
とくに、食事の場面で顕著に現れる「食い尽くし」行動に、違和感やストレスを抱えている方も少なくないでしょう。
そこで、今回は、「食い尽くし系夫」の特徴や離婚に至る法的なポイント、準備すべきことについて、法律の観点から詳しく解説します。
食い尽くし系とは

「食い尽くし系」とは、家庭内で食事や食べ物を独占するような行動を繰り返す人を指すネット上の俗語(ネットスラング)です。とくに家庭において、夫が家族の分まで平然と食べ尽くしてしまう場合に「食い尽くし系夫」と表現されます。
典型的な特徴
「食い尽くし系」と呼ばれる人には、以下のような特徴があります。
- 家族の人数を無視して料理をすべて食べてしまう
- 自分だけ高級な食材を食べ、家族には安いもので済ませる
- 外食では他人の料理まで手を出す
- おやつや取り置きの料理を勝手に食べる
- 食べられて困ると伝えても改善しない
こうした行動は単なる「食い意地が張っている」といったレベルを超え、家庭内の他者への配慮を著しく欠いたものといえます。
モラルハラスメントの一種
食事は家庭生活の基本であり、共同生活の中で思いやりが求められる場面でもあります。食べ物の独占は、相手に「我慢を強いる」「コントロールする」「尊重しない」といった心理的ダメージを与えるものであり、モラルハラスメント(モラハラ)の一形態とされることがあります。
食い尽くし系夫と離婚する方法

では、食い尽くし行動を離婚理由とすることは可能でしょうか。以下では、民法の離婚原因を踏まえながら、可能性について検討していきます。
法定離婚事由に該当するか?
民法770条では、以下の5つの法定離婚事由が定められています。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病による婚姻継続の困難性
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
食い尽くし行動そのものが、これらの事由に該当するとは言いにくい面もあります。しかし、以下のような事情が重なれば、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性はあります。
- 長期間にわたる精神的苦痛
- 家計を顧みない浪費行動(例:高額な食べ物の独占など)
- 改善を求めても無視・逆ギレする
- 他のモラハラ行為(暴言・無視・支配的言動)も存在する
協議離婚・調停離婚での進め方
実務上は、まず協議離婚を試みることから始めます。相手が応じなければ家庭裁判所に調停を申し立て、調停委員のもとで話し合いを進めます。
調停では、日常的なモラハラや生活上の支障、精神的苦痛などを丁寧に主張・立証することがカギとなります。
「食い尽くし」という言葉だけでは伝わりにくいため、行動の具体例や自分の感情・体調の変化などを具体的に示すことが求められます。
【参考】【弁護士が解説!】協議離婚と調停離婚どちらを選ぶべき?
食い尽くし系夫と離婚するために準備すべきこと

離婚に向けて動き出す場合、感情的に対立する前に、冷静に準備することがとても大切です。以下のポイントを意識するようにしましょう。
行動記録を残す
「毎週末、家族の分の焼肉を全部食べられた」「食べられることに抗議すると暴言を吐かれた」といった具体的な出来事を、日記やメモ、スマホのメモアプリなどに記録しておきましょう。暴言を吐かれた場合には、具体的な言葉も残しておくことが重要です。
また、LINEやメールでのやりとりがあれば、スクリーンショットで保存しておくことも有効です。
体調への影響や心療内科受診の記録
「夫との食生活が原因で食欲が落ちた」「不眠や吐き気が続き、心療内科に通った」など、健康被害がある場合には、受診歴や診断書も重要な証拠になります。
症状が出ている場合は、早めに医療機関を受診しておくと良いでしょう。
経済的な備え
離婚後の生活を経済的に安定させるためには、以下のような準備が必要です。
- 自分名義の預貯金口座の確保
- 就労の準備や仕事の確保
- 子どもがいる場合の養育費見通し
必要であれば、公的な支援制度(生活保護、母子手当、児童扶養手当など)についても、早めに自治体に相談をしましょう。
弁護士への相談
配偶者が「食い尽くし系」の場合、「この程度のことで離婚できるのだろうか」と悩む方も多いです。
しかし、実際には「小さなことの積み重ね」が重大な理由として認められるケースもあります。早めに弁護士に相談することで、離婚するためにどのような資料や準備が必要か、どの段階で行動すべきかを明確にすることができます。
【参考】調停離婚を弁護士に依頼するメリットとは?知っておきたいポイントを解説
まとめ

食い尽くし系夫の行動は、第三者から見れば「ただのわがまま」と映るかもしれません。しかし、実際に一緒に生活している配偶者にとっては、深刻なストレスと無力感を感じるものであり、また、家庭生活の崩壊につながる重大な問題です。
食い尽くし行為が「モラハラ」と評価されるかどうかは、その内容・頻度・改善の見込みなどによって判断されますが、きちんと記録を取り、証拠を集めることで、法的に認められる可能性も高まります。
離婚は人生の大きな決断ですが、「一緒に生活するのがつらい」と思ったら、我慢し続ける必要はありません。精神的・経済的に自立する道を切り開くためにも、早めの準備と専門家への相談がカギとなります。
弁護士法人山本総合法律事務所は、離婚問題に実績があり、多様な離婚原因に対応しています。
配偶者が「食いつくし系」で強いストレスを感じて離婚したい方も、一歩踏み出すことに不安を感じている方も、どうぞお気軽にご相談ください。」













